保育士志望から大学での実習を経て方向転換、障がい者支援の道を選びました。 葛飾通勤寮 西野(にしの)さん
2022年新卒で入職。東京都出身。子どもが好きだったことから保育専門の大学で保育士を目指していたが、保育園での実習を経験して自分には不向きだと断念。大学の先生にすすめられたことをきかっけに、障がい者支援の道に方向転換をした。知的障がいのある弟がいる。
上司に「無理に職員ぶらなくていいんだよ」と言われ、肩の力が抜けた
広々とした明るいエントランスと、吹き抜けの高い天井が気持ち良い葛飾通勤寮。入口から右手にソファーと大画面のTVがあり、左手には食堂兼リビングの大きなテーブル、その奥には調理室があり、ホテルのロビーのような雰囲気と開放感を醸し出している。
ここでは、約30名の軽度の知的障がいがある若者たちが、職場に通いながら寮生活をしている。寮生活を通して自立のための生活習慣や社会的なルール、金銭管理などが身につくように、受講講座などが準備されている。2年後までには寮生活を卒業して、一人暮らしか、実家に戻るかなど選択して、自立できるようにすることが目的だ。
この日、職場から戻ってきた利用者たち各々が鞄から財布を出し、何にいくらお金を使ったかを紙に書き出し、一人ずつ西野さんに報告をしていた。

西野さんは新卒採用後、この葛飾通勤寮に配属された。特別支援学校高等部卒業後に寮に入った利用者は年齢が近いこともあり、「あのさあ」とか、「ねえねえ、ちょっと」など、西野さんに親しげに話しかけてくる。身近なお姉さん的存在とはいえ、「職員」として接する上で、戸惑いはなかったのだろうか?
「そうですね、最初は歳が近くても職員なのだからと、質問をされたら全部答えなきゃいけないとか、変に力が入ってました。でも、上司から無理に職員ぶらなくていいんだよ、わからないことは、わからないと言っていいんだよ、と言われて、自分のスタンスで向き合えばいいんだ、もっと楽しんでいいんだって思えるように変わりました」
西野さんが無理をして緊張感が利用者に伝わり、相談したいこともできなくなるよりは、むしろ年齢が近いことを活かして友達のようにフラットな姿勢で接することで、利用者も本音で話せる、ということだ。

見学時、利用者が楽しそうに過ごしていた雰囲気が決め手に
大学時代、西野さんは保育士になろうとしていたが、実習に参加してみたところ、思っていた以上に保育園現場の仕事がハードでショックを受けたという。
「こんなに毎日忙しすぎるなんて無理、って思っちゃったんです。バリバリ働いて頑張りたい人にはいいと思うんですが、私はそういうタイプではないので、すぐ辞めたくなっちゃうだろうと思って‥‥もちろん、どんな仕事でも大変なことはあるとわかっていましたが」
保育園への就職は断念したという。
実習後、大学の先生に相談をしたところ、「障がい者施設はどうか」とアドバイスを受け、福祉現場を探して説明会や見学に行くようになった。
「見学時には、利用者の方や職員の人たちが、ピリピリしていないか、疲弊していないかって、雰囲気をよく見るようにしていました。原町成年寮は、利用者の方たちがとても楽しそうに過ごしていたんです。リラックスした様子で職員の人に話しかけていたし、雰囲気が明るくて、とてもいいなと思ったんです。ここなら大丈夫なのではと思って決めました」

西野さんが子どもの頃、通っていた小学校では、特別支援学級の教室に出入りが自由にできる環境だったそうだ。
「休み時間、支援学級に遊びに行くようになって、障がいのある仲良しの子ができたんです。家に帰ると知的障がいのある弟がいたので、弟は別の特別支援学校に通っていましたが、私にとって障がいのある子って、普通に身近な存在だったかもしれません」
内定者向け就職前2日間のアルバイトで安心ができた
西野さんは入職前に通勤寮で2日間だけのアルバイトを経験している。
「大学で福祉を勉強していなかったし、社会福祉士の資格もなくて不安もありましたが、資格がなくても頼りにされてしっかりお仕事をされている上司の方もいたし、現場の様子や仕事の流れもわかって安心できました。新卒で内定を受けた方は、この2日間の入職前アルバイトを体験されるといいと思いますよ」

今では、利用者からプライベートな相談事も頻繁にされる西野さん。一線を引いて傾聴をしながら、客観的にみるように心がけているという。
「精神的に安定しない方の悩みの聞き方が難しいなと思いますね。その都度、上司に相談しますが、役立つアドバイスをもらえるので、次はそう対応すればいいんだって、一つずつ積み重ねている感じです。通勤寮の職員は7名いますが、上司からも声をかけてくれるので、利用者の方の情報共有をしながら、何でも話せて、すごく風通しがいいです」
プライベートの時間では、趣味の演劇鑑賞を楽しんでいるという。女性上司から「仕事も大事だけれど、自分の時間も大事」と言ってもらい、心おきなく趣味を満喫することができている。
「私は仕事が終わったら好きなことができますけど、利用者さんは仕事を終えて寮に戻ってもやることがあるので、よく頑張っていて、偉いなと思います。寮に入ってきた時より変化があったのが見えると、ささいなことでもご本人の成長を感じてよかったなと思いますね。たくさんの若い人の人生に触れることができて、性格も考えも人それぞれで、若者の流行や好みもわかるし、面白い仕事です。私はこの仕事をずっと続けていくだろうなと思っています」

公開日:2025年12月17日
